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【弁護士監修】肖像権の侵害になる? 求人広告にアルバイトスタッフの画像を使う際に気を付けるべき3つのポイント

求人広告で実際に働くスタッフの写真を使用することは、職場の雰囲気を伝える点で有効です。しかし、個人にはいわゆる「肖像権」があり、これを侵害しないよう注意しなければなりません。

肖像権は、憲法13条が定める「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」という幸福追求権に基づく、新しい人権です*1。憲法や法律で明文化されてはいませんが、社会の変革に対応するため、過去の判例によって認められてきた権利です。

個人の肖像権には、自分の肖像をみだりに撮影されない権利である「撮影拒否権」と、撮影された自分の肖像を他人にみだりに公表されない権利である「使用・公表の拒絶権」が考えられます。つまり、撮影される人(被撮影者)は、撮影と、撮影されたものを公開するかどうか自ら決定する権利が法的に保障されています *2。

そのため、雇用主と被雇用者という関係であっても、無断で写真を撮影・公開することは肖像権侵害を問われる可能性があります。これは、肖像権の侵害を認められると、民法上の「不法行為」にあたり、損害賠償を請求されるというケース*2も考えられるからです。プライバシーや個人情報の保護への意識が高まっている現在、肖像権に関して、弁護士に寄せられる相談件数も増えています。

本記事では、弁護士監修のもと 、雇用主が求人広告用にスタッフの写真撮影をする際、肖像権を侵害しないために気を付けるべきポイント3点について解説します。

*1 参考)衆議院憲法審査会事務局「「新しい人権等」に関する資料
*2 参考)公益社団法人日本写真家協会「肖像権・撮る側の問題点

目次

※各目次をクリックすると、読みたい内容をすぐにご覧いただけます。

・ポイント①求人広告掲載用に写真撮影する際はあらかじめ趣旨を書面にて提示し、承諾を得る
・ポイント②「個人が特定される写真は避けたい」と要望を受けた場合、撮影方法を工夫する
・ポイント③退職・掲載停止の依頼があった場合は写真公開の取り消しを行う
・まとめ

ポイント①求人広告掲載用に写真撮影する際はあらかじめ趣旨を書面にて提示し、承諾を得る

そもそも肖像権は、写真を撮影する段階から発生します。被撮影者となるスタッフに無断で撮影すること自体、肖像権の侵害に該当します。
写真を撮影する際は、「撮影すること」「求人媒体に掲載すること」をあらかじめ告知し、本人に説明して承諾を得ましょう。

また、写真ではなく、似顔絵などのイラストを求人広告に掲載する場合にも、肖像権は発生します。イラストの場合でも 、必ず事前に承諾を得てください。
※イラストを制作して利用する場合、外注するのか自社で制作するのかによっても著作権の処理の必要性が変わるため注意が必要です。自社に著作権がない場合には、著作権者から利用の許諾をもらいましょう。なお、著作権を侵害した場合には、著作権法上罰則もあり、懲役や罰金などの罰則が科されます。

承諾を得る際は、後々「そのようなことは聞いていない」といったトラブルを避けるため、書面での提示を推奨します。 撮影承諾について必要事項をまとめた書面例(テンプレート)は下記からダウンロードしてご活用ください。下記のテンプレートは一般的なものであり、写真の使用条件等により承諾書の内容は適宜変更する必要があります。写真の使用条件を確認の上、使用する企業の責任においてご使用ください。

撮影の承諾書テンプレート

その他、過去に被撮影者が自らSNSなどに掲載した写真を求人広告に無断転載することも、肖像権の侵害にあたると考えられています。「すでに広く拡散されている写真だから問題ないだろう」などと考え、無断で転載することがないように注意してください。

なお、個人には、「自分の名前は本人だけが自由に使うことができ、他人は勝手に使えない」とする「氏名権」もあります。これを侵害した場合も、肖像権と同様に民法上の不法行為にあたるため、損害賠償の責任が生じます。 画像と一緒に氏名も記載したい場合は、あわせて事前に承諾を得るようにしましょう。

ポイント②「個人が特定される写真は避けたい」と要望を受けた場合、撮影方法を工夫する

被撮影者より「個人が特定される写真は避けたい」との要望を受ける場合があります。その際、撮影者は後ろ姿や横顔など、モデルが誰なのか識別できないように撮影してください。
髪型や体格などに特徴がある場合は、顔が映っていなくても人物を特定される可能性があるため、作業している手元のみを撮影すると良いでしょう。

また、一人一人の顔や姿が小さくなるよう複数人を撮影することも、個人が特定されにくくなる方法の1つです。ただし、画像の解像度を上げると誰であるかを判別できるケースもあるため、問題ないか確認を行いましょう。問題の有無に関しての判断が難しい場合は、念のためボカシ加工を行うか、弁護士などの専門家に確認することがおすすめです。

なお、撮影時には芸能人やスポーツ選手などのポスターのほか、アニメやマンガなどのキャラクターグッズ、商品のロゴなどが意図せず写り込まないよう注意しなければなりません。
芸能人やスポーツ選手などの著名人には肖像パブリシティ権*3がありますし、キャラクターグッズや商品のロゴなどは商標登録*4をされているため、無断で使用・公開した場合は不法行為にあたるため、懲役や罰金などの罰則が科されます。 これらが意図せず写り込んでしまった場合も、ボカシ加工で処理をすると良いでしょう。

さらに、オフィステナントによっては撮影可能な場所と撮影NGの場所もあります。求人広告を撮影する際は、テナントの許諾を取ることも忘れずに対応しましょう。
*3 参考)肖像パブリシティ権用語監視機構「肖像パブリシティ権って何?
*4 参考)ミツモア「キャラクターに著作権はない?権利を守るには商標登録が必要

ポイント③退職・掲載停止の依頼があった場合は写真公開の取り消しを行う

被撮影者であるスタッフが退職した場合は、求人広告に掲載している写真の公開を取り消しましょう。撮影当時には掲載の承諾を得ていたとしても、一般的に「在職中は許可する」という趣旨で承諾していると考えられます。そのため、退職後は承諾した”利用目的の範囲(期間)”を超えた、承諾の適用外となります。
この場合、スタッフが写っていない写真に差し替える、複数人が映っている場合は顔が特定できないよう加工する、または新たにスタッフと撮り直すなどの対処が必要です。

なお 、掲載承諾を得る際、適用範囲を「在職中だけでなく退職後も求人広告に掲載する」とした上で承諾を得た場合には、肖像権の侵害にはあたりません。ただ、承諾した本人が承諾の範囲を忘れていたり、退職の内容によっては心情的に気持ちよく思われないケースも多かったりすることから、トラブルを避けるために、なるべく退職者の写真は使わないようにしましょう。

なお、在職中であっても、被撮影者から掲載停止の依頼があった場合は、公開の取り消しを行わなければなりません。一度、掲載の承諾を得ていた場合でも、その時とは事情が変わることは十分に起こり得ます。先に挙げたとおり、個人には「使用拒絶権」が保障されているため、本人が掲載停止を求めた場合には、これに応じなければなりません。できるだけすみやかに対処してください。

まとめ

求人広告用にスタッフの写真を撮影・公開する際は、肖像権の侵害にあたらないか、十分に配慮しなければなりません。Web上に公開された写真は拡散性も高いため、正しく対応していなければ思いもよらないトラブルにつながる可能性があります。今回解説したポイントを参考に、事前に承諾を得て、適切な撮影・掲載を行うようにしましょう。

<監修者プロフィール>

弁護士法人C-ens法律事務所代表/弁護士
森崎 秀昭 氏
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経歴
2005年に立教大学法学部法学科を卒業後、2007年10月に司法試験に合格。司法研修所や都内企業法務系法律事務所などでの勤務を経て、2014年3月にはC-ens法律事務所を設立し、代表弁護士となる。個人向け業務の他、法人向け業務として企業顧問契約や人事労務サービス、コンサルティングサービスの提供などを行っている。また、特にスポーツ・エンターテインメント業界、IT業界の仕事を得意としており、経営者が実際に判断できるように、現場の従業員が行動できるようにという、現場レベルでの対応についてまでアドバイスやサポートを行っている。

記事公開日:2024年7月17日

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